空海寺 天平墓苑 開設一周年を迎えて

平成28年9月1日に開設した天平墓苑が、このたび一周年を迎えました。気がつけば、この一年間で百名を超える方々との新しいご縁に恵まれていました。まずは何より、支えていただいたみなさまに感謝の意をお伝えしたいと思います。

天平墓苑の造営計画を立て始めたのは、今からおよそ8年前のことでした。当時、永代供養墓は全国各地に数多く作られていましたが、奈良市ではほとんど例がなく、また樹木葬は奈良では初めての計画だったこともあり、許可を得る過程は予想外に大変なものでした。

前例がないためになかなか担当者の理解を得ることができず、東京や横浜に足を運んでは実地を見学し、永代供養墓や樹木葬の資料をととのえ、説明を重ねました。やがて少しずつ計画は進み始めたのですが、何度も設計の変更を余儀なくされ、また思わぬところで壁にぶつかり一年半が無為に過ぎたこともあり、結局三年で完成する目算が七年余りを要することとなりました。しかしながら、今思えば悪いことばかりではありません。じっくりと全体の計画を見直す時間が与えられたおかげで、時流に添ったいい墓苑ができた、とかえってありがたく思っています。

またこの一年間にご縁をいただいた方々の多くは、天平墓苑がなければ知り合うことの出来なかった方々です。これまでは「寺と檀家」という形が一般的でしたが、永代供養墓を媒介としたゆるやかな繋がりは、全く新しいご縁のあり方だと実感しております。現在は地域社会の崩壊や人と人との関係の希薄化により、縁をむすぶことが難しい時代となってまいりました。それは親族間にもあてはまることのようで、新聞やテレビで行き場のない遺骨の話題が取り上げられることもしばしばです。

この夏、ある出会いがありました。子どものころに生き別れたお父さんと、顔も知らないまま亡くなった後妻さんのために、永代供養墓をお求めになられた方です。「周りからは、そこまですることないって反対されたんです。」今、三十数年音信不通だったお父さんのお世話をされているその方は、笑顔でおっしゃいました。「でも、やっておけばよかったと後悔したくないんですよね。」

私たちはロボットではなく、血の通った人間です。ていねいに弔われたいし、弔いたい。この願いは、あたりまえに誰もが持っていることでしょう。ただ、それぞれの現実的問題の大きさゆえ、その願いが見えにくくなっている、あるいは叶えられなくなっているのだ、と私は考えています。こういう時代にめぐりあわせ、自分にできることは何だろうか、と問うてみた時、出てきた答えはこうでした。「ご縁をいただいた方々を、おひとりおひとりていねいにご供養すること」やはり、これこそが永代供養の原点であり、ゴールではないか、と思うのです。

一周年を迎えるに際し、墓苑にまつわるあれこれを振り返り、綴ってみました。そして思いも新たに、より安らげる墓苑へと尽力してまいります。どうぞこれからも、よろしくお願い申し上げます。

合掌