志賀直哉と深い親交のあった、彫刻家加納鉄哉の墓が空海寺にあります。鉄哉(小説では蘭斎)の墓に詣でる様子が、以下のとおり「蘭斎歿後」に描かれています。

志賀直哉「蘭斎歿後」より

空海寺までの道は静かだつた。公園には未だ人出がなく、お幾はわざと気楽に歩いて貰つた。南大門を廻り大佛殿の前の鏡ケ池の所へ来て、先年此處で月見をした事を憶ひ出した。毛氈、重詰、瓢箪、總て、蘭斎好みの風流だつたのはいいが、涼しすぎる晩で、皆あとで風邪をひいた事など二人は笑ひながら話し合つた。大佛殿の裏から正倉院に添つて行つた。空海寺は小さな寺で、大和八十八ケ所の一つだつた。お幾が先に石段を登つて行くと、澤芳は本堂の傍の閼伽井からバケツを下げて来た。菩提樹の下に一面杉苔を植ゑ、その中に小さな石塔が建つてゐる。梵字で空風火水地、蘭斎墓と簡単に彫つてある。建てたばかりで落ちつきはないが、これは浩の設計だつた。(中略)お幾は長いこと、墓前にぬかづいていた。